当法人への相談でも、マスコミ上でも会社の不正行為は後を絶たない印象です。経営管理上会社が業務のために貸与しているパソコン等のモニタリングは必須ですが、プライバシー保護の観点から何でもいつでもモニタリングできるわけでもありません。また、モニタリングの結果不正が分かった場合にもその対応はケースバイケースで、慎重に対応する必要があります。
Ⅰ 判例から読み解くと
1,貸与パソコンのモニタリングは可能か?
★ 閲覧の範囲や方法が適切であれば適法とした判例
y「従業員が社内ネットワークシステムを用いて電子メールを私的に使用する場合に期待し得るプライバシーの保護の範囲は、通常の電話装置の場合よりも相当程度低減されることを甘受すべきであり、・・・・監視の目的、手段及びその態様等を総合考慮し、監視される側に生じた不利益とを比較衡量の上、社会通念上相当な範囲を逸脱した監視がなされた場合に限りプライバシー権の侵害となると解するのが相当である」
(F社Z事業部(電子メール)事件・東京地裁平成13年12月3日判決・労判826号76頁)
つまり、好奇心・興味本位の閲覧であるとか、監視権限がない者による閲覧などは違法となる可能性がありますが、不正等が疑われるケースでは閲覧の目的に正当性があり、閲覧の範囲や方法が適切であれば問題はないといえます。
2,私用電子メール、1日2通程度であれば批判も背信性低い
★ 会社PCで上司誹謗の私用メールを行った社員の解雇を無効とした判例
(概要)
原告は、昭和54年2月被告会社に採用され、平成11年からは主に秘書業務、英文による情報提供業務、翻訳業務等に従事していた。原告は、平成13年5月23日から6月19日までの出勤日20日間に、被告会社から貸与されたパソコンを使用して、私用メール49通(うち、送信35通、受信14通)を送受信したが、そのうち就業時間内に行われたものは39通(うち、送信33通、受信6通)であった。この私用メールにおいて、原告は被告会社内部のみならず、外部に対しても経営批判を繰り返し、その内容は被告会社CEOのことを「アホバカCEO」と評し、あるいは「気違いに刃物(権力)」など上司に対する批判が含まれていた。
そこで、被告会社は、原告に事情聴取したが、原告には反省の意思も被告会社経営陣の指示に服する考えもないことが判明したため解雇したものである。…
(結論)
会社のパソコンから私的な電子メールを送受信し、上司に対する誹誘中傷を行ったとして解雇した効力が争われたもので、電子メールの私的使用は1日2通程度で職務専念義務に違反したとはいえないとし、上司への批判は使用者への誠実義務の観点から不適切だが背信性は低く解雇は無効。
グレイワールドワイド事件(東京地判平15・9・22)
貸与されたパソコンで上司の誹謗を行った社員の処分。上司からみたら許せない行為でしょうが解雇は重過ぎるというもの。
3,出会い系サイトでの大量の私用メールは、懲戒解雇相当
★ 著しく品位に欠き、職務専念義務に違反したとした判例
(概要) 専門学校等を経営するY法人が、勤務時間内に職場のパソコンを利用して出会い系サイトに登録し大量の私用メールを送受信したことを理由として教師Xを懲戒解雇したところ、Xは、懲戒事由に該当する事実はなく解雇権を濫用したなどとして、地位の確認、未払賃金等の支払いを求めて提訴したもの。
福岡地裁久留米支部は、懲戒解雇事由に一応は該当するものの、その内容や程度、影響等からすると解雇権の濫用に当たるとしたが、福岡高裁は、Xの行為は、著しく軽率かつ不謹慎であり、学校の品位や名誉を傷つけるものであること、職務専念義務に違反することなどから、懲戒解雇は適法であるとした。
(結論)
- Xの私用メールは、膨大な件数に達し、その約半数が勤務時間内に行われているなど、職責専念義務等に著しく反し、その程度も相当に重い。
- Xの行為は、著しく軽率かつ不謹慎であり、学校の品位、体面及び名誉信用を傷つけるものである。
- 勤務時間中、学校のパソコンを用いて私用メールを長期間、かつ膨大な回数にわたって続けることが許容されないことは自明のことであって、パソコン使用規程を設けていたか否かで背信性の程度が異なるものでもない。
- 非違行為の程度及び教育者であったことからすれば、懲戒解雇が苛酷なものとはいえない。
さすがに勤務中の出会い系サイトの大量私用メールはアウトとの判決。
4,要するに量と質
〇か×かではなく、内容や方法、時間等により判断されるということです。
Ⅱ 不正が疑われたら
1,まずは調査
不正が疑われるときは躊躇なくパソコンのモニタリング等行うべきです。ただし上記判例にもありますが、閲覧の目的、範囲、立ち合いをする人、等を明らかにして行う必要があります。また、人間関係等を考慮すれば事前に通告したほうが良いですが、証拠隠滅等のリスクがあればいきなりの調査も必要でしょう。
2,不正が発覚したとき
不正が発覚したときは、懲戒処分は必須です。そうでないと会社の姿勢を示せないし、本人にも伝わりません。ただし懲戒の種類は慎重に考慮する必要があります。つまりやったことの内容と処分の重さです。上記判例では原告が行ったことに対して解雇が重すぎるというものもあれば懲戒解雇が相当というものもあり、感情にまかせず慎重に対応する必要はあります。
Ⅲ 就業規則は
1,就業規則への記載は必須
上記判例からみれば、方法を間違わなければ貸与パソコンのモニタリングは根拠規定がなくても問題はないでしょう。しかし、決まりがないと人によって判断がかわるでしょうし、そのようなことが起きない事が重要なので、あらかじめルールを定めやってはいけないことの告知と、疑われたときの対処を伝えておくことは重要です。
2,就業規則の記載例
(1)モニタリングについて
「会社が貸与した情報端末などは業務遂行に必要な範囲で使用するものとし、私的に利用してはならない。また、会社が許可したソフトウェア、アプリケーション以外をインストールしてはならない。」
「会社が必要と認める場合は、貸与した情報端末などに蓄積されたデータなどを閲覧することがある。この場合、正社員はこの閲覧を拒むことはできない。」
(2)懲戒解雇
「会社が定める服務規律に違反し、その程度が重いとき」
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