<事案>
まさか今日明日やめる従業員の退職金を払えないという企業はないでしょうが、退職金診断をしていると「どう見てもここ数年で資金がショートする」という企業はけっして少なくありません。
<ポイント>
退職金は退職金規程により決められます。さまざまな理由によりこの退職金規程を下回る積立しかしてないケースを多く見受けられます。場合によっては積立を全くしてないケースもあります。退職金規程どおりに積立をすることが一番良いことですが、場合によっては見直し(引下げ)もやむを得ないでしょう。退職金の法的な位置づけは、今までの権利(既得権)は守らなくてはなりませんが、将来の権利(期待権)は、そこまでは保証を求めてないようです。また、退職金に関しては制度が長いせいもあって、通常の労働条件よりは不利益変更に対してもゆるいようです。このままで立ち行かないのであれば早く手をうつべきです。
退職金は非常に高額になり、企業経営から見た時に見直さなければならないケースも出てくるでしょう。ただし、退職金の廃止や減額は社員にとって大きな不利益変更になり、労使紛争の勃発や企業への忠誠心の低下につながりかねないので、慎重な対応が必要です。
退職金制度を見直す場合、既得権と期待権という二つの権利を分けて考える必要があります。既得権は現在の社員が現時点での退職金の金額で、期待権は将来何年か務めたと仮定したときの退職金額です。
退職金を減額する場合、通常既得権はそのまま守り、期待権を新しい制度に合わせる方法が一般的です。つまり退職金規程の変更までは従来の規程を当てはめ、その後に関して新しい規程を当てはめることです。制度によって設計が複雑になりますが、ざっくりはこんな感じです。ただし、これらを行う前提としては、経営上の高度な必要性や充分な説明、同意の取り付け等が必要であることは行くまでもありません。
(単位:%)
企業規模 | 退職金制度が ある企業 | 退職一時金 制度のみ | 退職年金 制度のみ | 両制度併用 |
---|---|---|---|---|
調査企業計 | 80.5 | (73.3) | (8.6) | (18.1) |
1,000人以上 | 92.3 | (27.6) | (24.8) | (47.6) |
300~999人 | 91.8 | (44.4) | (18.1) | (37.5) |
100~299人 | 84.9 | (63.4) | (12.5) | (24.1) |
30~99人 | 77.6 | (82.1) | (5.4) | (12.5) |
※ ()内の数値は、退職金制度がある企業を100%とした場合の割合
出所:厚生労働省「平成30年就労条件総合調査」
1,内部留保
社内で留保する方法ですが、退職給与引当金が損金算入できなくなったので、退職金制度をこの方法で行う企業はほとんどなくなりました。暫定的に扱う程度です。
2,生命保険の活用
一部または全部損金で処理できる積立型の生命保険を活用する方法ですが、損金の扱いが小さくなっています。
3,中小企業退職金共済制度
中小企業が従業員の退職金を積み立てるために国の機関に預けるもので、全額損金算入でき国からの補助もあります。中小企業はまずはこの制度を検討したら良いと思います。
4,確定給付企業年金
金融機関の商品ですが、将来の給付額を約束するものです。従業員のとっては安心感は高いものですが、企業にとっては予定の利回りを下回った場合補填しなくてはいけないので、リスクとはなります。
5,確定拠出年金
毎月の拠出額を決めておいて、運用は加入者(役員・従業員)に委ねるものです。企業にとっては拠出することで運用の責任はありません。企業が拠出しますが、加入者が個人で拠出することもできます。その場合給与額そのものから削減できますので、税金や社会保険料が減額します。