会社が社員へ損害賠償の裁判を起こす例をたまに見ますが、これはリスクが大きくなります。経営を脅かすレベルのこと以外では控えるべきでしょう。
1,逆に訴えられる
状況は様々でしょうが、業務上のことで裁判を起こされたら社員が完全な戦闘モードとなります。労働組合への加入や周囲へのあることないことの会社の文句、場合によっては未払残業などで裁判を起こされることもあります。
2,他の社員への悪影響
会社が社員を訴えるという行為は、社員には大きな動揺が走ります。よほどの事案であっても、もしかしたら自分も何かやったら訴えられるのか、といった想像もさせます。
※ 当事務所のクライアントでも、自損事故を起こした社員を訴えた事案がありましたが(あまりにもふざけた運転をしていたことに経営者が腹をたてたため)、未払残業の支払いを求めて逆に訴えられ、双方裁判を取り下げた事例があります。
<争点>
業務中の従業員が起こした自動車事故により被った損害額を、どの程度、当該従業員に請求できるか
<概要>
石油等輸送会社Yに主に小型貨物自動車の運転手として雇用された従業員Xが、入社半年後の昭和45年1月、重油を満載したタンクローリーの運転を臨時的に命じられ、渋滞し始めた国道を走行中、急停止した先行車両に追突した。このため、Yは損害賠償金約40万円を相手に支払う一方、Xにその全額を賠償するよう提訴した。なお、Yは、経費節減のためタンクローリーは対人賠償責任保険にのみ加入し、対物賠償責任保険・車両保険には加入していなかった。また、Xの給料は、45,000円であり、勤務成績は普通以上であった。
水戸地裁、東京高裁ともに、自動車による危険な事業活動を行う企業は、事故の発生に備えて任意保険にも加入しておくことは当然であり、また、Xの仕事の内容、勤務態度や給与、事故の態様、Xの過失の内容などからして、YがXに請求できるのは、信義則上、損害額の4分の1が¥妥当であるとし、最高裁も、この判断は正当であるとした。
<判決理由>
「使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである」
(最高裁判所昭和51年7月8日茨木石炭商事事件判決)